TOUR うたう ハナレグミインタビュー2

──ライヴハウス・ツアーの話が動き始めたのはインドから帰国した後ぐらいになるのかな。

永積インドから戻ってきて、ちょっと経ってからなんで……たしか3月ぐらいだったかな。

──どんな感じにしようとか、なんとなくツアーのイメージみたいなものはあった?

永積そうだね。しいていえば、"どんな感じ"というイメージがないツアーをやりたかったかな。なんか、もう、そういうことでいいんじゃないかという気がしていて。身体的にも、環境的にも、今はすごくベストな状態なんだよね。そういう時期だからこそ、細かいことを考えず思い切りやってみたいなという気持ちがある。武道館をやり終えたときに、自分の声の状態がすごくいいなと思ったの。だから、歌えるときにどんどん歌っていったほうがいいのかもしれないなと思って。

──今回、あえてバンドでツアーを回るスタイルを選んだのは?

永積やっぱりバンドが好きだというのがあるよね。今度のツアー・バンドは、おおはたくん以外、ここ最近、よく一緒にやってる人達で。今まではライヴのたびにバンド・メンバーを変えることが多かったんだけど、同じメンバーと長くツアーを回ってみたいなという気持ちになって。

──それぞれのメンバーについても聞いていきたいんだけど。まずは、おおはた雄一くん。ハナレグミのツアー・バンドにおおはたくんがギターで参加してるっていうのが、すごくしっくりくる反面、なんだか意外な感じもして。

永積わかる。たしかにそうだよね。おおはたくんが他のミュージシャンのバンドにギタリストとして呼ばれることってほとんどないから。

──ギタリストとしてのおおはたくんの魅力は?

永積おおはたくんは歌のことをよく分かっているから、ギターの音色やフレーズの引き出し方が本当に凄いんだよね。ただのリード・ギタリストとは全然違う。それは彼自身がシンガーだっていうことも関係してると思うんだけど。そういう意味でも、自分とすごく呼吸が近いんだよ。あと、おおはたくんが弾くエレキ・ギターもすごくいいんだよね。50年代とか60年代頭くらいの、もともとアコースティック・ギターを弾いていたであろう人たちと、おおはたくんってエレキ・ギターの弾き方が一緒なんだよ。エレキを持ち始めた頃のボブ・ディランとか、あとはザ・バンドのギタリスト(ロビー・ロバートソン)とかに弾き方が近いような気がする。あれは彼の弾くエレキの良さだと思う。

──で、曽我大穂くんは、もう……なんて表現したらいいんだろうね。片腕? 相棒?

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SLS2010 2010年8月29日
永積トーテムポールです(笑)。なんか木彫りっぽいし。はははは! まあ大穂はなんだろうな~。御神木みたいな感じかな(笑)。すごく心強い存在だよね。思ったことそのまま言ってくれたりするし。演奏以外のこととか、もっと大きな部分について指摘してくれる。そういうふうに言ってくれる人は自分にとってすごく大事だなと思ってる。だから大穂と俺の意見が違っててもいいと思ってるし。対等に言い合える仲間っていうのが自分にとっては必要なんだよね。それすらもセッションみたいなもんだと思うから。実際、"面倒くさいこと言い始めたな"とか思うけど(笑)。でも、そういうこと言ってくれる人間がいないと現場がフレッシュにならないような気がするんだよね。水が流れないっていうかさ。大穂はホント面倒くさいこというんだよ。

──"イチからやり直しじゃん!"みたいな?

永積そうそうそう(笑)。本当によくある。でも、そこに時間をかけようとする意味をすごく知りたくなるんだよね。そこに根本的な何かがあるのもなんとなく分かるから。大穂は、そういう人ではあるよね。客観的で頭いい人だし。

──ベースのガンジー西垣さんとも付き合いは長いでしょう。

永積そうだね。ガンジーさんは大穂と一緒にCINEMA dub MONKSというバンドもやってるし。なんて言うか、ガンジーさんは香りの人だよね。

──香りの人?

永積うん。フレーズが。自分の好きなブラック・ミュージックが持ってる要素をすごく感じちゃう。粗野な部分があるんだけど、音に匂いがあるっていうか。ミーターズとか、ああいう感じに近い。俺はそういうプレイが好きだから。もっと言えば、"やっぱ演奏って顔じゃね?"みたいな(笑)。前のめりになって、それしか弾けないとか、そうするしかないって状態で演奏できるのって、俺は才能だと思うんだよね。

──"顔で弾く"ことに関しては、SUPER BUTTER DOGの頃からすごく重要視してるよね。

永積そういう人じゃないと信用できないもんね。上手さだけに向かってる人とか、形とかジャンルだけに完結しちゃってる人には全然興味ないし。

──ハミ出してない感じというか。

永積そう! それに、そういう人とはコミュニケーション取れないし。自分の場合、コミュニケーションが苦手なぶん、だからこそコミュニケーションが大事だとも思ってるの。ガンジーさんは自分と一緒で器用じゃないからさ。時間をかけてプレイしてる人を見ると自分も時間をかけられるんだよね。

──やっぱりこれでいいんだって安心できるってこと?

永積そうだね。やっぱりそういう人が自分は好きだし。

──やってる音楽にどっぷりのめりこんじゃう人が。

永積うん。だし、やっぱり音楽って絶対にそういうものしか人に届かないと思うから。美しくぱっとやれるものなんかで絶対に人は惹きつけられないと思う。もちろん上手さは重要なポイントだけど、それと一緒にどれだけすべてをそこに賭けられるかっていう意気込みがないと仲間として一緒にできないなと思う。ガンジーさんは本当にそういう人だと思うからね。だから、遠い沖縄からでも呼びたいと思うし。あの人じゃないと出せないベースの表情がすごくあるから。それをもっと聴いてみたいっていう思いもあったんだよね。

──ドラムの中村亮さんは? 

永積アキラはもともと沖縄の人で。ガンジーさんが沖縄でジャズのライヴとかやるときに一緒にやってたドラマーなんだよね。元々、彼はニューヨークに勉強でずっと行っていて、向こうで活動していたんだけど、日本に帰ってきたときにガンジーさんとセッションとかよくやっていたらしいの。あるとき彼がCINEMA dub MONKSでドラム叩いているのを見て、すごく潔いドラムを叩く人だなと思って。それで彼と一緒にやってみたいなと思ったの。

──最初に中村さん一緒にプレイしたのは?

永積最初に一緒にやったのは、今年の5月に中目黒のクラスカでやったシークレット・ライヴかな。そのあと、大阪の野音でやったスチャダラパーの20周年ライヴでも叩いてもらった。アキラの叩くドラムはすごくいいグルーヴ感があるんだよね。

──今、話を聞きながら改めて思ったんだけど、やっぱり永積くんの中には常に強烈なバンド願望があるんだね。

永積あるある。やっぱり一人で弾いてても辿り着けない高みがあって。誰かに伝えようとすることで辿り着ける昂揚感やアイディアっていうのが絶対的にあるからさ。そういうものをいつも目指していたいと思うし、一瞬でもいいから見たことない感覚に辿り着きたいって思うと、一人ではやれないって思うしね。たとえば弾き語りをするんだったら、お客さんをメンバーにしちゃうというか。

──ああ、お客さんをメンバーに。なるほど。

永積そういう方向に意識をシフトするとかね。ただ"僕のいい歌を聴いてください"とか、そういうことはもうやる必要がない気がするんだよね。そこには全然面白さがないし。

──予定調和に陥っていくよね。

永積そう。ただ最近は、自由に思いついたままにやるっていうことだけがいいやり方だとも全然思ってなくて。それはひとつの楽しみ方だと思うな。そういう楽しみ方を踏まえた上で、"あえて今日は全曲決めてやってやりたい!"みたいなさ。そういうことをしても今は前とは違う楽しみ方ができると思う。だからそういう意味で、俺は今、なんでもいいなと思ってるの。自分で自分も騙していくセッションみたいなさ。自分で自分を追い込むような(笑)。今回のZEPPツアーもそういう部分があるしさ。

──ちょっと突っ込んだ質問をすると一時期、ライヴハウスみたいな殺風景な空間で歌うことに意味を見出せないって言ってたことがあったでしょ。

永積うん。言ってた。

──永積くんの中で、そういう思いは完全になくなったの?

永積それは今も変わらずにあるよ。

──あるんだ。

永積うん、ある。ライヴハウス的な空間に自分が合わせたようなライヴをやったら、すごくつまんないだろうなと思ってる。だから、ライヴハウスでやることの意味を感じながら演奏するってことが、あの場所を新たな空間にクリエイトすることなんじゃないかと思う。それが今は自分の中に自信として見つかったから。今の自分がやったら、もう少しライヴハウスをいつもと違う景色にできるんじゃないかと思う。幸い、いろいろなアイディアを持ってるスタッフも今は周りにいるし。そういう仲間たちと一緒にやったら、あの空間で、もうちょっと、いろんなことできるんじゃないかと思う。そういう自信もあるし。あとは純粋に自分がそこに慣れてないっていうのが大きいよね(笑)。

──ライヴハウス慣れしてない(笑)。

永積そうそう(笑)。それがあのライヴハウスっていう空間をライヴハウスっぽくしない力だと思う。武道館でライヴやる前に追加公演としてZEPP TOKYOでライヴをやったんだけど、会場のテンションが高くて、お客さんの興奮具合がステージ裏にまで届くのが分かったんだよね。それってライヴハウスならではの感覚で、自分にとってすごく新鮮だったの。僕がいつもライヴハウス・ツアーをしてたら、そういうことって絶対に感じなかったと思う。だから自分がライヴハウスに対して、フレッシュな気持ちで向えてさえいれば、ライヴハウスでやるライヴっていうのも自然とおもしろいものになると思うし、もっと言えば、そういう気持ちさえ自分の中に生まれれば、どんな場所でもライヴができるんだって思うよね。やっぱり音楽はコミュニケーションだと僕は思うからさ。どんなふうにその場所と繋がるかとか、その瞬間を繋げるかっていうことに自分が向えたら、その場所は絶対、今までと違う新しい場所になると思う。

──ツアーに向けたリハとかは、まだ先だよね。

永積うん。まだまだ全然。ただ、いろんなことをできるだけやってみたいなとは思う。何も作品をリリースしていない、この時期だからこそやれることをとことんやれたらいいなと思ってる。

──でも、ライヴハウス・ツアーって、すごく久々だから……一体どうなるんだろうね(笑)。それこそ最初のツアー以来だから、7年半ぶりとか?

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soul of どんと 2010年8月15日
永積ホントどうなるんだろうね(笑)。でも今、ZEPPっていうのがすごくいいタイミングだと思う。なぜかっていうのは上手く言えないけど。自分の状態からして、ホールで静かに聴いてもらうっていうよりかは、なんかこう、おっさんたちがステージ上でウワ~ってやってるみたいな感じが今の自分には合ってるなって思う。こないだ『soul of どんと』に出て、ボ・ガンボスの「夢の中」を歌ったんだけど、思いっきり、どストレートにウオ~って真っ直ぐに歌うっていうのが、やっぱりすごく気持ちいいなって思ったの。




──そういう気分が"うたう"というシンプルなツアー名にも、そのまま反映されてるのかな

永積そうだね。"魅せるライヴ"っていうよりか、もう"やるライヴ"って感じになる気がする。いろんなゲストが出たりっていう、見せる感じのライヴは武道館である程度やりきったなと思ったから。次はまた、初期衝動だったり、そういうものに一回立ち戻って一気に自分を爆発させたいなって思って。だったら"うたう"っていうシンプルなタイトルでもいいのかなって。自分が本当にやりたいことって、突き詰めていけば、やっぱり"うたう"ってことだと思うし。

──ここで改めて歌い手としての原点に立ち戻ると。

永積ちまちま、"もうちょっとこうしようかな……"とかじゃなくて、やったれ~!! 歌え~!!みたいなさ。なんかね……そういうのがいいんスよ。今は、そういう気分なのかな。だからワクワクしてるよね。

──ここから、また新たな局面が始まりそうな予感がしてる?

永積始まるね~、新たな局面。もうすぐ自分のスタジオもできるし。超楽しみだよ! ツアーが終わったらそのままの勢いでアルバムのレコーディングに入るから。みんな楽しみにしててほしいよね。来年まですごいテンションで一気に突っ走るから!

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