TOUR うたう

約7年半ぶりとなるハナレグミのライヴハウス・ツアー、その名も『TOURうたう』。彼が何を思い今回ライヴハウスでのツアーを敢行しようと思ったのか? 大きな理由をふたつ挙げるとするならば、それは"タイミング"と"距離感"だといえるだろう。先に掲載されたオフィシャルHPのインタビューで永積は、「いろんなゲストが出たりっていう、見せる感じのライヴは武道館である程度やりきったなと思ったから。次はまた、初期衝動だったり、そういうものに一回立ち戻って一気に自分を爆発させたい」と、ライヴハウス・ツアーに向けた意気込みを力強く語っている。喜・怒・哀・楽という4つの単語だけでは表現できない"内なるソウル"をヴィヴィッドな色彩で表現したアルバム『あいのわ』を完成させることで手に入れた表現者としての大きな自信。また歌い手としても、先述したオフィシャル・インタビューから再び言葉を借りると、「身体的にも、環境的にも、今はすごくベストな状態」なのだという。そんな自らを取り巻く好況を肌身で実感しつつ、歌い手/表現者として新たな一歩を踏み出そうとしている "決定的な今"を最適な距離感で聴き手に伝えられる場所として彼が選んだのがライヴハウスだったのだ。まさに歌い手と聴き手との距離感を何よりも大切にしてきたハナレグミらしいチョイスといえるのではないだろうか。

10月13日の仙台を皮切りに、札幌、大阪、東京、福岡、名古屋といった全国6都市のZeppを回った今回のツアー。追加公演として11月5日に行われたZepp Tokyo公演はツアーの最後を飾るにふさわしい中身の濃いステージになった。 定刻少し過ぎ、曽我大穂(ハーモニカ/Key etc.)、ガンジー西垣(Ba)、 中村 亮(Dr)、 おおはた雄一(Gt/Vo)からなるバンド・メンバーとともに永積がステージに登場。今回のツアーはゲスト・ミュージシャンを一切入れず、曲によっては大穂が鍵盤を担当するなどして、すべての演奏をこの4人だけで行うという、きわめてバンド色の強いスタイルが採られているのだ。 「週末なんでね。全力で盛り上がっていきましょう!」というMCに続けて、1曲目に演奏されたのは「音タイム」。永積が弾くアコースティック・ギターの音色に、おおはたのマンドリンが絶妙に絡み合い、爽やかな朝の光を思わせるキラキラとした音の粒が会場全体にゆっくり降り注いでいく。さっと、まばゆいライトがステージを照らし出すと、2曲目「あいのわ」に突入。どっしりと地に足ついたサウンドをバックに歌う永積の伸びやかな歌声がなんとも気持ちいい。そして、ゆったりとしたリズムが心地よい「踊る人たち」、軽快なスカのリズムがゴキゲンな「愛にメロディ」、大穂のフルートと、おおはたのスライド・ギターをフィーチャーした開放感溢れるアレンジが印象的だった「レター」の3曲が披露されたころには、ハナレグミのライヴ特有の自由でピースフルな雰囲気が会場全体を包み込んでいた。ごくごく自然に、いつものように。

そして、「おおはた雄一君とぴったりと密着しながら歌うというコーナーをこれから始めたいと思います」という永積のMCから、永積&おおはたがアコースティック・ギターを手に1本のスタンドマイクを挟み、「ヒライテル」~「Three Little Birds」を弾き語りで披露。大穂、ガンジー、中村の3人がピアニカで演奏に加わる微笑ましい一幕も。それに続けて演奏されたのは、おおはたによる訳詞が付けられたボブ・ディラン「Don't Think Twice It's All Right」の日本語カヴァー。弦が擦れるかすかな音さえも伝わってくるぐらい、しんと静まり返った場内に響くアコースティックギターの温かな音色。ひとりひとりに語りかけるようにして歌われる2人の優しい歌声にじっと耳を澄ますオーディエンスたち。それぞれのオーディエンスがじっくりと歌の世界に自らの思いを重ねあわせることができる、こんなひとときが用意されているのもハナレグミのライヴの醍醐味だ。そして「あいのこども」を経て再びステージはバンドセットに。「People Get Ready」「360°」をアコースティック・タッチの演奏でしっとりと聴かせる。